有機農業を経営として取り組んでいる生産者はごくわずかです。
例えば、静岡県農業法人協会には約130の農業経営体がありますが、その中で有機野菜を事業の中心にしているのは、当園だけです。
「どうして有機農業を始めたのですか?」、「これからどうなると思いますか?」こうした質問をよくいただきます。
私が有機農業に関心を持ったきっかけは、農業高校の教員時代に担当した、農業科目「エコロジー」という環境問題を学ぶ授業での生徒たちの反応が高かったことにあります。宿題で出すレポートを勉強嫌いの生徒たちも毎回しっかり提出し、中には図書館で調べたり、家で会話した親の意見を書いてくる生徒たちもいてびっくりしたものでした。

授業の中でレイチェル・カーソンが書いた「沈黙の春」を取り上げました。農薬には残留性があります。化学肥料は土壌や水を酸性にします。生態系は食物連鎖です。雨に流された農薬や化学肥料によって湖のプランクトンはやがていなくなり、魚がいなくなり、動物もいなくなります。魚がいない湖は透き通り、空から鳥や虫の声が聞こえてくることはありません。聞こえてくるのは風の音だけ、そんな沈黙の春がやってきます。そういった内容です。

当時、私は温度や水やりをコンピュータにより環境制御ができる温室で、花と野菜を育てる授業も担当していました。見上げた時に見えるのはガラス越しの空、足元はコンクリート、鳥や虫はいない、聞こえてくるのは水耕栽培のためのモーターの音、「あれっ、これって“沈黙の春”なんだ」と思いました。水耕栽培用の液肥が入った溶液タンク内の排水管にできたコバルトブルーの肥料の結晶があまりにきれいで、魚がいない湖を連想しました。そこにあるのは、自然環境と隔離することで成立している農業です。
実際に始めた有機農業は、猛暑や大雨で大変ですが、空は大きく鳥の声が一日聞こえます。土には多様な植物が育ち、虫の声が聞こえます。この空気と水と土から育ったものだけを食べていたら、体の中と外が同じになるのかなあ、そんなことを考えます。
有機野菜に求められているのは、今はまだ、安全や栄養や美味しさですが、エコロジーの授業を受けていた生徒たちを思う時、「私は環境を守るために有機野菜を食べます。」そんな時代がやってくると思います。

しあわせ野菜畑のオーガニック野菜のお求めはこちら
