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教員から農業へ

静岡県立小笠高校の農業の授業にて(2001年頃)

静岡県立小笠高校は静岡県内で最初の総合学科高校です。多種多様な科目が準備され、生徒たちは自分の目的に沿って科目を選択ができます。教員が新しい科目を設定し、希望者が多ければ講座数を増やすこともできました。

 農業分野で最も人気があったのは、「野菜」という科目でした。この授業では、夏はメロン、冬はイチゴを育てます。人気の科目は講座数を増やして対応していましたが、ある年、6人の女子生徒が定員の都合でどうしても選択できないという状況が生まれました。

当時、私は学科長を務めており、その6人を呼び、「あそこに空いている畑がある。そこを使って、いろいろな野菜を育てる授業をやってみようと思うが、どうだろうか?」と提案しました。

 普通の話のように聞こえるかもしれませんが、農業科目は日本農業を学ぶ場ですから、単一品目大規模経営を念頭にしています。「さまざまな野菜を作る」というのは当時の農業科目としては異端でした。有機農業を教えるという発想が、まだ広まっていなかった時代です。

 教室もなくて、ビニールハウスの中に机を並べて6人の生徒で始めたこの授業は、数年後には5講座、120人が選択を希望する人気の講座になりました。

 生徒達は授業以外でも、昼休みや放課後に友達と一緒に畑に野菜を見に来ました。中には休日に親を連れて、自分の育てている畑を見せに来る生徒もいました。「こんな授業があるなら、私ももう一度この学校に入りたい」そんなことを言ってくれる親御さんもいました。

「こんな感じで、いろいろな野菜を育てて、それに共感してくれる人に直接届けるような農業経営を成立させたら、農業をやりたいという担い手が出るかもしれない」そんなことを考えました。

こうして私は、2008年、47歳の時に、「露地栽培」「多品目生産」「農場直送」というコンセプトを持った有機農業を始めることにしました。

最初に始めた6人の女子生徒
農業を始めた頃、この写真を見ながら、「みんなが、あまりにも楽しそうに授業をやってくれたので、農業を始めてしまったけど、やってみると結構、大変だよ・・・」などと、疲れた時に愚痴ったものでした。それも、いい思い出です。