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【9月第4週】「おはぎ」と「ぼた餅」

 9月、秋分の日が過ぎてあっという間に10月ですね。随分と過ごしやすい日々になりました。皆さんは秋のお彼岸におはぎを召し上がりましたか。一般的な習慣として、秋のお彼岸には「おはぎ」、春のお彼岸には「ぼた餅」を食べますね。「おはぎ」と「ぼた餅」は似通っていますが、秋の「萩の花」と、春の「牡丹の花」に見立てて作られているところに違いがあります。

 秋に咲く萩の花は、小さな蝶形花が集まった姿をしています。粒あんの一粒一粒が、その萩の花を思わせます。一方、春の牡丹は「立てば芍薬、座れば牡丹」と称される豪華な花。「ぼた餅」は大きく丸めたご飯に、重なる花びらのようにこしあんをまとわせ、全体でひとつの牡丹に見立てます。つまり、「おはぎ」は集合体、「ぼた餅」は大輪の花というわけです。ここまでは一般的な説明ですが、ある疑問が浮かびます。どちらもお米と小豆(餡)を用いているにもかかわらず、なぜ秋のお彼岸は萩の花に、春のお彼岸は牡丹の花に似せているのでしょうか。

 農業者の視点から見ると、その理由は「米と小豆の旬」にあるのではないかと思います。秋は新米の季節。収穫したてのお米を餅になるまでつくのはもったいないし、せっかくの粒を味わいたいので、「おはぎ」はお米の粒を残すように軽くつき、小ぶりに仕上げます。小豆も秋に収穫したばかりで柔らかいため、皮ごと味わえる粒あんに。まさに新米と新小豆を楽しむお菓子ですね。

 ところが冬を越すと、お米も小豆も硬くなり風味も落ちます。そこで春の「ぼた餅」では、米をしっかりついて大きく丸め、小豆は皮を取り除いてなめらかなこしあんに仕上げます。これだけでは終わらずこれを「牡丹に似せた」と表現するのは、日本らしい粋な工夫と言えるでしょうか。

 また「おはぎ」「ぼた餅」をお彼岸の供養のあとにいただくのも、昔の暮らしに合っていたのではないかと思います。甘いものが貴重だった時代、秋のおはぎは夏の農作業で疲れた体を癒やし、春のぼた餅はこれから始まる農繁期に向けて力をつける意味があったのでしょう。

 今では保存技術の発達で、これらのお菓子を年間を通じて売るお店も多くなりました。農的な生活からも切り離されて、季節の区切りを感じる食べ物となっています。ちなみに私の実家では「ぼた餅」のことを「おはぎ」に対して「おぼた」と呼んでいたのですが、皆さんの家では「おぼた」と呼びませんか。