皆さんはご自身で野菜を作ることがありますか。最近では、農村地帯であっても、農作業をしている人の姿をあまり見かけなくなりました。当園は有機的市民農園を併設していて、いつも誰かが畑仕事をしています。「農業って大変そうですね」と言われることもありますが、市民農園の利用者の皆さんはいつも楽しそうに作業されています。本来、農業とは食べるものを作ることであり、楽しいものです。そして、食べるものを作る以上の価値があると私は考えています。
ヨーロッパにはドイツ語で「クラインガルテン」と呼ばれる市民農園があります。随分と昔、実際にドイツへ視察に行きました。ヨーロッパでは、市民農園が都市周辺に多く作られており、多くの都市住民が農業を楽しんでいます。ひとつのクラインガルテンには100~200もの区画があり、非常に広大です。それぞれの区画には「ラウベ」と呼ばれる小さな小屋が建てられ、芝生や樹木を植えて、1日中快適に過ごすことができます。

市民農園の中心には広場があり、テーブルや椅子が設置されています。そこでは、みんなで食事をしたり、ビールを飲んだり、読書をしたりして、思い思いの時間を過ごします。市民農園というより「農園公園」という雰囲気です。
このクラインガルテンの起源は19世紀初頭、ドイツのライプツィヒに住む医師が始めたもののようです。当時、子どもたちが病気にかかりやすかったため、より自然の中で過ごし、健康な野菜を食べるようにと、郊外に農地を借り、親子で休日に野菜づくりをするように勧めたのが始まりとのこと。
日本では家庭菜園について「スーパーで野菜を買うより得かどうか」という話題になりがちですが、クラインガルテンの目的はあくまで心と体の健康を育むことにあり、コストパフォーマンスという考え方はありません。農業を行うこと自体に意味があり、そこで流れる時間に価値があります。そして現代では、生物多様性の保全、都市の緑化、気候変動の緩和といった、農業の多面的機能の価値が重視されているようです。
経営者としてはお金のことはもちろん気になるのですが、農業者としていつもこうした価値のことを心に留め置いておきたいものです。