
夏、農場から遠い空に高く伸びる積乱雲があると、つい見惚れてしまいます。束の間ぼんやりと遠くを見つめて、すぐに作業に戻ります。何度も見ているはずなのに惹かれてしまうのはなぜなのでしょう。夏は日が長く、また雲や空を見る機会が多いせいなのか、季節や暦について考えることが多くなります。
農業と暦は歴史的に見ると非常に関わりが深く、正確な季節を知ることは農作物を育てる点において欠かせないものでした。例えば古代ギリシアの詩人ヘシオドス『労働と日々』や古代ローマの詩人ウェルギリウスの『農耕詩』には暦や天体観測に基づく農作業に関する指南があります。
現在、世界的に使用されているグレゴリオ暦(太陽暦)は、元々は古代エジプトに由来します。かつて、ナイル川が氾濫することを利用して灌漑かんがい農業を営んでいたエジプト人は、ナイル川の氾濫時期を予測するために、太陽の運行を元にした暦を使用するようになったそうです。
この太陽暦は、農作物の栽培に適合しているために次第に広く使われるようになり、後にカエサルがローマに導入してユリウス暦とし、地中海世界やヨーロッパで広く用いられるようになりました。その後、わずかなずれを解消するために修正され、16世紀にローマ教皇グレゴリウス13世が定めたグレゴリオ暦で、ほぼ現在の太陽暦ができあがったといいます。
日本にも夏至や秋分、冬至や春分などの区分(二十四節気)があり、一般に馴染み深いものがあります。二十四節気は実際の作業の目安としては、やや実感と異なる部分もありますが、大まかな季節感の把握には優れています。
ナイル川の氾濫によって洪水が起き、土地には様々な栄養素が蓄積され、これにより肥沃な農地が準備されることで農産物が豊かに実る。こうした肥沃な土壌がエジプト文明を形成したとされます。いつ洪水が起きるのか…。この周期的な予測技術の登場を、かつて古代エジプトの人々は待ち望んだことでしょう。
ちょうどこの季節、掛川ではオクラやモロヘイヤなどアフリカ原産の野菜が旬を迎えています。この厳しい暑さにも負けずに育った元気な夏野菜を食べて、暑い夏を乗り切りたいものです。
