『農業のマーケティング教科書』しあわせ野菜畑バージョンの紹介

しあわせ野菜畑です。
当社は今年、情報発信活動強化の取り組みの一環として、静岡県立大学の学生の皆さんの力をお借りし「マーケティング」に対する理解を深める活動を行ってきました。
今回は、その成果の一部を皆さまに紹介いたします。

本活動は静岡県農業法人協会との連携事業で、静岡県立大学の岩崎邦彦ゼミとの協働です。

野菜をお客様にお届けする際に必要な発想とは何か?学生からのアイデアをどうぞご覧ください。

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静岡県立大学情報経営学部岩崎ゼミの趙、鈴木、川嶋、中原と申します。岩崎ゼミでは、静岡県農業法人協会との連携事業で、農業のマーケティングのコンサルティングに取り組んでいます。しあわせ野菜畑さんをテーマにした私たちの研究成果を発表させていただきます。

【しあわせ野菜畑さんからの依頼内容】
『農業のマーケティング教科書』しあわせ野菜畑  バージョンの作成

静岡県立大学の岩崎先生が著書『農業のマーケティング教科書』の中で、「生産者目線ではなく消費者目線での情報発信が大切」と書いています。私は何度も読むのですが、いつの間にか生産者目線になってしまいます。消費者目線での情報発信を行うため、著作の内容をしあわせ野菜畑に落としこんだ参考書や例題集みたいなものを作っていただきたいです。(しあわせ野菜畑代表大角から)

【研究報告】

しあわせ野菜畑さん(以下、しあわせ野菜畑)からの依頼を受け、私たちはまず『農業のマーケティング教科書』を読み込みました。その上で、依頼主に対してヒアリングを複数回行うことで解決すべき課題を洗い出し、実践に即した内容の研究成果として以下の(1)〜(6)にまとめました。

(1)マーケティングの発想を持つ
(2)ブランドイメージを発信する
  ①チラシやPOPのフォントをロゴとあわせる
  ②キャッチフレーズを大切にする
  ③ブランド・アイデンティティを明確にする
(3)知覚品質を高める
  ①野菜に形容詞をつける
  ②生産者へのインタビュー動画を作成する
  ③農場見学を活用する
  ④レシピ動画を作成する
(4)農業を体験してもらう
(5)お客様の心をとらえる
  ①有機野菜セットの中から2種類ほど自分で選べるようにする
  ②野菜セットの中にお客様の名前を書いた手書きのメッセージカードを入れる
(6)お客様の声を聞く

(1)マーケティングの発想を持つ

あなたは「有機野菜+○=満足」と聞かれた時に何と答えますか?
生産者は「おいしい」「安心・安全」「高品質」と入れるそうです。
それは価値ではありますが、「モノ」の説明です。お客様が見ているのは「食べモノ」ではなく「食べるコト」です。大事なのは、有機野菜が食卓に乗った時のイメージ、有機野菜をどう使って食べるかということです。

私たちはここに、「笑顔の食卓」「バーニャカウダ」「ほっこり」を入れてみました。

「モノ」ではなく「コト」を説明すると考えると、野菜を紹介する時の写真は農場や野菜が育っている様子より、有機野菜を使った料理のシーンや食べている場面を見せる方が効果的です。

お客様に “おいしいですよ” と呼びかけるのではなく、“ぜひ食べてみたい”と思ってもらうための活動がマーケティングです。

(2)ブランドイメージを発信する

同じ価格、同じ品質の2枚のうどんの写真があり、ひとつには「かながわのうどん」、もうひとつには「かがわのうどん」と書かれています。あなたは、どちらを選びますか。

調査によると、「かながわのうどん」から「な」の一文字をとるだけで集客力は10倍以上になるそうです。

ここで伝えたいことはブランドは「品質」や「価格」を超えるということです。野菜のように食べてみないと味や品質、安全性がわからないような商品は、誰が作っているか、どこで作られたか、どういうストーリーがあるのか、周囲の人の口コミはどうかで。その商品がお客さんに選ばれるかが決まります。

では、具体的にどのようにしたら、しあわせ野菜畑のブランドイメージを印象付けることができるでしょうか。

①チラシやPOPのフォントをロゴとあわせる
しあわせ野菜畑の企業ロゴのフォントは親しみやすさを込めたデザインにされており、評判も良いとのことでした。そこで、このフォントをロゴだけでなく、商品のチラシのタイトルやPOP広告、CM動画の文字に使いましょう。

②キャッチフレーズを大切にする
しあわせ野菜畑のホームページの「想い」の項目を読みました。ここにはしあわせ野菜畑のブランドイメージの核となる、野菜作りへの対する想いに関する記事が掲載されています。

この中からキャッチフレーズを作ります。
私たちは「“生きる力”のある野菜」というフレーズに着目しました。それを使ってPOP広告を作成しました。

作ったキャッチフレーズをCM動画やチラシ、ホームページの目立つところなど、お客さんの目に触れるすべての場所で繰り返し使うことで、お客さんの中にしあわせ野菜畑さんのブランドイメージを印象付けていきます。

 

③ブランド・アイデンティティを明確にする
『農業のマーケティング教科書』によれば強いブランドとは、
「イメージが明快であり売り手側がブランドの理想の姿」を持っているブランドです。
大切なことは、“しあわせ野菜畑がお客さんにとってどんな姿でありたいか”、その理想の姿を持っていることです。

 

(3)知覚品質を高める

知覚品質とは「消費者目線の品質」のことです。生産者が「おいしい」という時、味覚のみに基づく認識に終始してしまいがちです。他方、消費者は味わう前に目、鼻、耳、そして頭と心で「おいしさ」を感じます。生産者の品質と、消費者が思う品質は異なっているため、おいしさを言語化する必要があるのです。

①野菜に形容詞をつける

しあわせ野菜畑は、野菜の写真にその野菜の名前が載せてあります。私たちは、野菜の名前をただ載せるのではなく、「味」「見た目」「食感」「香り」など、お客様がどのような野菜なのかイメージしやすく、魅力が伝わるような言葉(形容詞)をつけて表現することを提案します。

しあわせ野菜畑は30代から60代の食に関心のある女性をターゲットとしています。女性は形容詞がつくと興味を持ちやすくなると考えられています。
(例)シャキシャキとしたみずみずしい有機キャベツ 

②生産者へのインタビュー動画を作成する

生産者の想いを生産者が語るのではなく、消費者からのインタビューという形式で動画を作成します。その方が、お客様がしあわせ野菜畑をより身近に感じ、共感を生むことができ、購入したいという気持ちを高めることができると考えます。

③農場見学を活用する  

農場見学は、お客様にしあわせ野菜畑の野菜をより好きになってもらうことができる貴重な機会です。また、農場見学に来たお客様が友人・知人伝えたくなるような仕組み、SNSで発信したくなるような場面を意識的に作ることが大切です。

④レシピ動画を作成する  

お客様が価値を感じることは、食べるモノ(野菜)ではなく、食べるコト(野菜を食べる時間)です。そのためには、しあわせ野菜畑の野菜を使って料理、食事をしている時間をお客様がイメージできるようにするということが欠かせません。しあわせ野菜畑はレシピを公開していますが文章ですので、野菜を食べているイメージがしにくいです。レシピ動画をつくり、野菜の袋にQRコードをつけるとか、インスタグラムなどで公開することで、野菜を買った人だけでなく、買おうか迷っている人にも興味を持ってもらえるようにします。

(4)農業を体験してもらう

1つの体験は、100の広告に勝ります。
心理学的な研究によれば、心理的な体験は物質的な充足よりも持続的な幸福感をもたらすことが示されています。都市部では、全国の産地の生産者が同じような試食会を開催していますが、そのような無料の試食会での「おいしい」という言葉は「ありがとう」くらいの意味にしかなりません。よって、消費地に赴くより、産地に来てもらう方がはるかに効果的です。
東京の試飲会で無料の静岡茶を飲むより、静岡の茶畑で静岡茶を飲む方が感動するのです。

しあわせ野菜畑ではすでに農場見学ツアー(ガストロノミー・ツーリズム)に取り組んでいますが、私たちはこれに“「農業」と「イベント」を掛け算する”ことを考えました。

例えば、以下のようなメニューはいかがでしょうか。

①収穫した野菜をジューサーにかけてオリジナル野菜ジュースをつくる

②自分が収穫した野菜を自分で洗って袋詰めをしてからメッセージを添えて友人や家族に送る

③大根を千切りにして切り干し大根にしてから、乾いたら袋詰めして自宅に送ってもらう

④家族向けの有機野菜の栽培方法を教えるワークショップを開催する

⑤お客様の関心を知るためにイベントのアイデア自体を各SNSを用いて募集する

切り干し大根を作る様子

(5)お客様の心をとらえる

安全安心、健康効果、機能性などお客様の「理性」への訴求だけでは、お客様はファンになりません。お客様を引きつけている農産物は、お客様の「理性」(頭)だけでなく、お客様の「感性」(心)にも訴求しています。

21世紀の農業は「良い悪い」だけの勝負ではなく、「好き嫌い」の勝負でもあります。お客様の「心」を捉えることができれば「良い商品」が好きな商品に代わると思います。

私たちは、しあわせ野菜畑の取り組みとして「生産者と消費者のつながりを感じる工夫」をすることを提案します。消費者が生産者とのつながりを感じられると、もっと安心して、愛着をもって商品を選ぶようになります。

例えば、お客様に「自分のために作られた」と感じてもらえるように工夫することが大切です。

具体的には、このようなことです。

①「有機野菜セットの中から2種類ほど自分で選べるようにする。」

その他の野菜はおまかせにすることで、届いたときに「どんな野菜が入っているかな?」という楽しみが増えます。これで「選ぶ楽しみ」と「届く楽しみ」を同時に感じてもらえます。

②「野菜セットの中にお客様の名前を書いた手書きのメッセージカードを入れる。」

これで商品がもっと特別なものに感じられ、満足度も高まります。

費用対効果を考えると実現できないかもしれませんが、このような工夫を常に考えトライすることがお客様からのリピートにつながると思います。

(6)お客様の声を聞

農業のマーケティング教科書では、うまくいっている農業者の特徴として、次の5点が挙げられています。
①消費者と交流をして消費者の声を聞いている
②価格競争に巻き込まれない
③安定的な販売先を確保している
④核となる商品がある
⑤女性の力を活用している

私たちは今回「①消費者の声を聞いている」に注目して、しあわせ野菜畑が宅配しているお客様へアンケートを実施しました。

ご協力いただいた皆様、ありがとうございました。
次回の記事にて紹介いたします)

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ここまで、学生の皆さんからいただいたアイデアを紹介しました。
日ごろ私たちは「農産物を懸命に作れば買ってもらえるはずだ」という思考に陥りがちです。
これは非常に大切な姿勢ではあると感じています。
しかし、
「生産の場での価値と、販売や消費の場での価値は必ずしも一致しない」
そして、
「販売には販売のロジックが必要である」
というこれら(遅ればせながらの)「発見」が、今回私たちが学生の皆さんから得られた知見です。

皆さんは非常に真面目で、私たちの話をとても熱心に聞いていただきました。
これらの成果をもとに、よりお客様に満足していただけるような商品・サービスの提供に努めてまいります。

静岡県立大学の皆さん、ありがとうございました。