農業への先入観の転換

いつか農業をやろうと思いつつ、その一歩が踏み出せないでいた頃、空を見上げながら露天風呂に入ると考えが整理できるような気がして日帰り温泉によく行きました。そして、サウナの後の水風呂に入りながら、「農業も水風呂も同じかもしれない。入る時には勇気が必要だけど、入った方が心にも体にもいい。最初は冷たいけど、慣れてくると気持ち良くなってくるに違いない」と思ったものでした。

自分の中では方向性が決まっていて、背中を押してくれるものが欲しかったのですが、農業は大変なものという先入観があったのは確かです。

先日、久しぶりに日帰り温泉に行って水風呂に入っていたら、子供たちが「わぁ、気持ちいい」と言って入ってきました。自分はとってもショックでした。「そうか、水風呂も農業も慣れるまでは大変だと思っていたから苦労したんだ。冷たくて気持ちがいいと思えば、最初から楽しむことができたんだ。」子供たちの姿を見てそんなことを思いました。

専業農家の長男である自分は、農業が好きだという気持ちを持ちながらも、「農業は大変な仕事だ」という概念を植え付けられています。「農業って難しいよね」という人の方が圧倒的に多いのも事実です。苦労は美徳という価値感の世代でもあり、農業は大変でなくてはいけないような気がしていて、わざわざ自分で山を作って苦労して登っている気がします。「農業は楽しいし、難しい仕事でもない。そんなふうに考えた方がうまくいく」、最近はそう思います。

 

( 2014年10月19日 静岡新聞 農業欄 こだま )

自然の恩恵に感謝

しあわせ野菜畑がある掛川市北部の土はとっても粘土質で、作物を作るのは大変です。土は固くて重く、ニンジンや大根などは掘り上げにくいし、ジャガイモは形が無骨です。雨が降ると靴に土がついて取れません。しかし、粘土質であるため栄養分の吸着力が高く、できた野菜は味に深みがあり、野菜本来のおいしさがします。

掛川の土地は第三紀層と言われる、とっても古い年代に形成された地層が隆起してできています。古い方から倉真層群、西郷層群、掛川層群と呼ばれる地層に別れ、倉真層群は地球に隕石が衝突して恐竜が絶滅し頃の地層、西郷層群は日本列島がユーラシア大陸から離れたころに海底に蓄積された地層、いちばん上の掛川層群でも人類の祖先が誕生したころの地層なのだそうです。

現在、新しく2haの農場を造成しています。機械を使って掘り出したときには塊となっている岩盤が、空気に触れると数日間でボロボロになります。そんなふうにして出来上がった農地の上に立って、「この土は太古の古代生物が住んでいた深い深い海底で堆積されて、それから、長い長い眠りに入って、1000万年以上の時を経て太陽と空気に触れているのかなぁ」と思うと畏敬の念を感じます。

この場所に、これから堆肥と肥料を入れて耕して、種をまいて、水をかけて、来年の今頃はいろいろな野菜が育っていることになります。

「野菜を育てる」という言い方をしますが、長い地球の歴史の中で積み重ねられた自然の恩恵を分けていただいているだけです。謙虚に感謝の気持ちを持って野菜つくりをしたいと思います。

 

( 2014年10月5日 静岡新聞 農業欄 こだま )

 

ゴーヤも生きている

9n8g23nsk47k

昨日は、お野菜の配達、ありがとうございました。

ゴーヤが入っていまして、頂いてみようかなと思って一日過ごしましたが、やっぱり他のお野菜と交換をお願いします。美味しそうなゴーヤなんですが…、すみません。

□ □ □ □

当社では旬の野菜をセットにして、定期的に宅配便と掛川市内には直接お届けしています。

苦手野菜をお聞きしてあるのですが、チェック漏れで苦手なゴーヤを入れてしまったお客様からこんなメールをいただきました。

それに対して、こんな返信をしました。

□ □ □ □

すみません。ゴーヤの代わりは次回持っていきますね。

でも、あくまでよかったらですが、ゴーヤをそのまま置いて観察してみませんか。

そのうち黄色くなってお尻が割れます。そして中を見ると、種が真っ赤なゼリーに包まれています。このゼリーなめると甘いんですよ。ゴーヤ、生きているんですね。

処分してもかまいません。ゴーヤにとっては自分が野菜なのか花なのかの違いはないわけで、見てくれたり悩んでくれただけでも本望だと思います。食べてもらえなくても、花よりは長生きし注目されたと思います。もちろん、交換した方が良かったらお伺いしますね。

□ □ □ □

市内宅配で直接お届けしていて、いろいろな話を交わしているお客様だから書くことができた内容で、誰に対してもこの対応で良いとは思いませんが、その後、こんなメールが届きました。お客さまに感謝です。

□ □ □ □

ゴーヤですが縁あって我が家に来たのでいただこうと思います。

青く苦いゴーヤが赤く甘くなって。

種の保存の為でしょうか。

野菜もひとつひとつ生きていますね。

 

( 2014年9月7日 静岡新聞 農業欄 こだま )

鍛えよう、若き日を!! 

こだま画像ファイル(小)

農業を始めたころは体力的にとっても大変でした。仕事が終わって畑から帰ってくると軽トラックの直角の座席に座ったまま動くこともできなかったし、夕食で茶碗を持ったまま寝てしまうくらい疲れていました。休みの日をとることもできないし、テレビも2年くらいは見る時間がありませんでした。寝ていて筋肉がけいれんして目が覚めたり、夏は体の中のほてりがとれなくて水風呂に入ったりしたものでした。

「鍛えよう、若き日を!」というメッセージが地元の掛川西高校のグランドの外側に掲げられています。自分が農業を始めたのは47歳の時ですが、このメッセージを見るたびに「若くもないのに、いつまで鍛えないといけないのかなぁ」と思ったものでした。

あれから7年、仕事のコツがわかってきたり、何よりスタッフに支えられて、体力的にヘトヘトになることはなくなりました。戻りたいとは思いませんが、あの頃のことは懐かしい思い出になっています。

でも、楽になったかというと決してそうではありません。仕事量も責任も不安も増えています。変わっていないのは、自分自身に「がんばれ、がんばれ」とか「できる、できる」と声をかけている毎日です。

きっとこの先も大変な毎日が続くのだろうけど、大切なのは結果ではなく、目的を達成するために自分自身を鍛えているプロセスなのかと思います。目的であるゴールはいつでも次へのステップであり、それは若い時も、今も、これからもずっと変わらないのかなと思います。

だから、「鍛えよう、いつまでも!!」です。

 

( 2014年8月17日 静岡新聞 農業欄 こだま )

 

スタッフ便り

しあわせ野菜畑で働き始めてからちょうど1年。赤ちゃんを授かることができました。
結婚して3年、子どもにはなかなか恵まれなかったのと、子どもを自分と同じアトピー、喘息にしたくないなぁとの思いから『食』と『ストレス』を見直そうと、「こちらで働かせてくれませんか?」と大角さんにお願いしました。
つい薬に頼ってきた今まででしたが、こちらにお世話になってから野菜がとにかく美味しいのでとても楽に食でコントロールできるようになりました。
ストレスに弱く、何がストレスになっているのかも分からなくなっていましたが、耳をパタっと閉じて、自分の心に正直になって1つ1つ変えていったことで、今の自分が今までで一番自分らしく毎日が楽しいです。
子どもが生まれたら専業主婦になりますが、こちらの野菜と自分の小さな畑で採れた野菜にお世話になりながらごはん作りと子育てとを思いっきり楽しんでいきたいです。
大角さん、おじいちゃん、おばあちゃん、スタッフのみなさん、
そして、いつもしあわせ野菜畑のお野菜を食べて下さるお客様、楽しく働かせていただき、私を変えて下さり、心から感謝しています。
ありがとうございます。

———————————————-

毎月発行しているニュースレターの、「スタッフたより」のために
スタッフの真理さんが書いてくれました。

読ませていただいて、とてもうれしい気持ちになりました。
そして、本当に良かったなぁと思いました。
どうもありがとう。

 

七夕の思い出

こだま画像ファイル

夏本番、少量多品目の有機野菜を栽培している当社は元気な夏野菜でいっぱいです。
そして、この時期は雑草も元気いっぱい、草取りに追われています。

さて、私たちの地域では8月7日が七夕です。
昔は、この時期の農家の仕事と言えば、もっぱら田んぼのあぜ道の草取りでした。
私の母親が嫁いできたその年の8月上旬のある日、いつも通りに母親が田んぼのあぜ草を刈り取っていると、おじいちゃんがやってきて、
「もうじき8月7日、夜中に七夕様が田んぼのあぜ道をお通りなさるから、つまずかないようにあぜ草をそれまでに刈り取っておかないとね」と言ったそうです。

そして、8月7日は農休み。専業農家で毎日忙しい我が家も、おじいちゃんも、おばあちゃんも、両親もみんな家にいて、
七夕飾りと一緒にゆったりとした時間が流れていて、のどかで楽しい一日でした。
昔の人は「今日は休みだ。」などと言わないで、こんなふうにして自然と一体になって体を休ませていたのでしょうね。

この言い伝えは我が家だけではなく、ごく普通に私たちの地域では言われていて子供達はみんな信じていました。
その頃は、街灯などなくて夜になると外は真っ暗で、どこまでも広がる田んぼの水面にホタルが星のように舞っていました。
子供にとっては夜の田んぼも夜空の星も同じような異次元空間で、純粋に「七夕様もこんなに狭いあぜ道を通って行くなんて大変だなあ。」と思っていました。

農業を始めたので思い出しましたが、長い間忘れていた遠い遠い昔の思い出です。

 

( 2014年7月6日 静岡新聞 農業欄 こだま )

農業体験農園、始まります。

こだま画像ファイル

「野菜つくりをしたいけど、どうしたらいいかわからない」という相談をいただきます。
庭や畑があってホームセンターで苗や農具を手に入れることが出来ても、実際に育てるには知識と技術が必要です。
野菜つくりの本を読んでも、実際やってみると本のようにはうまくいきません。

そんなお客様の声から農業体験農園「しあわせ野菜ガルテン」を昨年から始めました。
野菜の種や苗、スコップやハサミや肥料といった資材を当方で用意して、
種まきの仕方、手入れ、収穫の目安などを講習会でお伝えしながら育てていただき、出来た野菜は自分たちで収穫して持ち帰ります。

今年の夏野菜はトマト、キュウリ、ナス、ピーマン、枝豆、トウモロコシ、空芯菜、サツマイモ、スイカを育てています。
当社の場合は、無農薬で化学肥料も使わないので、しっかり育てられるか心配でしたが、たくさん収穫でき、先日は採れた野菜でバーベキューを参加者全員で楽しむこともできました。

一般の市民農園と比べると、とても割高ですし、虫に食べられたり、カラスにつつかれたりするので、収穫した野菜を値段で換算するのは無意味です。
しかし、「野菜を自分で作ると、全部食べてあげなきゃって思いますね。」とか、「野菜を育てたら、料理するのが楽しくなりました」とか、「野菜嫌いの子供が野菜を食べるようになりました」と話してくれたり、夫婦や家族で楽しそうに畑作業をしている様子を見ると、農産物を生産して提供するだけが農業ではないんだと思います。

9月から始まる冬野菜の農業体験農園ではブロッコリー、キャベツ、白菜、人参、大根、ホウレンソウ、小松菜などを育てます。
どんな笑顔と出会えるか楽しみです。

売ることは難しい。

こだま画像ファイル

農業を始めた頃は栽培にほとんどの時間を費やしているのに、いいものができませんでした。
ところが、出席していた勉強会で、「いいものを作るのは当たり前、難しいのは売ることです。」
「今までになかった新しい価値感を創造して提供するのが経営です。」と言われ途方に暮れたものでした。
生産者は「いいものを作れば売れる。」と思いがちですが、それでは経営と呼べないそうです。

さて、静岡県のアンテナショップが東京にできたのを知っていますか?
全国の逸品が集まる食の新名所としてオープンした店舗の一角です。
この場所に当社のコーナーを設けていただくことができ、野菜と人参ジュースを持って店頭販売に行ってきました。

「おいしそうな野菜だね」「有機で作った野菜って安心ですよね。」と評判は上々、
試飲していただいた人参ジュースは、お客様全員が「すごくおいしい!」と言ってくれました。

ところが、売れないのです。「こんなに褒めてくれているのに、なぜ買ってくれないの!」と叫びたい気持ちでした。

しかし、アンテナショップに並んでいる商品を見て納得しました。
そこに並んでいる商品は、各地域から選りすぐられた、どれも優れたものばかりです。
おいしい、安全安心、珍しいは当たり前なのです。自分の野菜は、その中で埋没しているのです。

「そうそう、私が欲しかったのはこれなのよ」と思わずお客様が声を出してしまう商品、
初めてなのに運命的な出会いと感じて買いたくなる商品、自分の野菜がそういうものであるために必要なものは何なのか。

それは見た目でも品質でも値段でもなく「野菜の物語」ではないのだろうか、その物語を創って伝えるのが経営、そんなふうに考えています。

( 2014年7月6日 静岡新聞 農業欄 こだま )

 

食育の始まり

赤ちゃん

「人間の体は何からできていますか?」そう質問されたら、なんと答えますか。

「水とタンパク質と炭水化物と・・・・」とか、「炭素と酸素と・・・」と答えたりしますが、もっとも端的な答えは「食べたもの」だそうです。
}そうなんです。人間の体は食べたものからできているのです。
だから、自給率40%ということは「私たちの体の6割は外国製である」ということなんですよね。

さて、アトピーであったことから食に関心を持ち、うちのお店(野菜直売所)を利用していただいている若いお母さんがいます。
3年前に妊娠した頃は、うちの野菜とお米だけの食生活でした。
そして、出産した当日にメールで赤ちゃんの写真を送ってきてくれたのですが、自分はその写真を見て、「この赤ちゃんはうちの野菜とお米でできているんだなぁ」と思ったものでした。

この少々不遜な話をお母さんは大そう気に入ってくれていて、「あなたは野菜でできているんだから、野菜を食べなきゃだめだよ。」と言って子育てしています。
そして、アトピーの兆候もなく元気に育っている女の子は、野菜が大好きです。
お母さん曰く「子供の時の食育が大切っていうけど、それじゃあ、遅いわよね。食育は妊娠前から始めなきゃ。」とのことです。

このような話をお客様と交わすことができるのも、うちが生産直売という形で、お客様に直接野菜をお届けしているからです。
市場出荷と比べて手間はかかりますが、実際に食していただくお客様と話ができることはとても楽しいし、励みになります。

voice

 

( 2014年6月15日 静岡新聞 農業欄 こだま )

野菜の物語を伝えたい

silkload01

15年前、静岡大学農学部による、かつて「西域」と呼ばれたオアシス都市での衣食住に関する学術調査隊へ参加させていただきました。
オアシスというと砂漠の真ん中に泉があり、その周辺に小さな集落があるというイメージですが、現実のオアシスはとても大きく、
巨大な山脈からの雪解け水を使ってたくさんの農作物が作られていました。

ある日、訪れた村で私たちは昼食の招待を受けました。
とてもおいしく、楽しい食事会でしたが、それ以上に感動したのは食事の前の村長さん挨拶でした。

それは「遠い遠い日本から、砂漠の中の小さな小さな村に来ていただいてありがとうございます。
何もない村ですが、本日用意させていただいたお米もパンも、野菜や肉や果物も、ジュースやお茶やお酒もすべてこの村で出来たものです。」というものでした。
自分はとっても贅沢だと思いました。

日本人は「選りすぐり」が大好きです。
全国各地から選び抜かれた食材で料理することが、こだわりとされます。
しかし、考えてみると、それはバブルの時代にロシアからキャビアを、フランスからフォアグラやトリュフを空輸して有り難がっていたのと、あまり変わらないのではないかと思いました。

シルクロードのオアシスの町で、「本当の食のこだわりとは、おいしさではなく、安全安心だけでもなく、その食材が育ってきた物語(背景)ではないだろうか。」
「自分が育てた食材(いのち)を直接販売して、お客様に野菜の物語を伝えられたら素敵じゃないだろうか。」そんなことを考えました。

そんなことがきっかけで、「少量多品目有機野菜の生産直売」をすることにしました。

 

( 2014年6月1日 静岡新聞 農業欄 こだま )

 

1 2 3 4 5